ユングのレイシズム/DSM過剰診断


 ユングは、1929年フロイトと合衆国に同行したときに公立病院の15人の黒人の夢と発言を分析し、「黒人の精神が系統発生的に原始的である」と発言した。彼は、黒人は「白人よりも歴史の層が薄い」と報告した。また彼は、黒人の子どもっぽさは伝染すると指摘し、その伝染性の障害を「アメリカン・コンプレックス」と命名した。彼は、腰のくねりからテディ・ルーズベルトの笑いまで、アメリカ白人のふるまいのすべてに、黒人からの影響を見出した。さらにユングアメリカ人の性的な抑圧を、黒人に対する防衛として説明した。1910年の第2回国際精神分析会議では、彼は次のように発言している。
この抑圧・・・特にアメリカン・コンプレックス・・・は、低級人種、特に黒人との共同生活によって生じるものであろう。野蛮な人種と生活することによって、白人が苦心して飼い慣らした本能に、暗示的効果が強力に加えられる。そのため強力な防衛が必要になり、それがアメリカ文化の特性となっている。
 ユングホロコーストの後、初期の人種差別的発言のいくつかに訂正を加えたが、完全に退けはしなかった。それらは活字となり、精神障害の判定におけるレイシズムに重要な権威として貢献した。 精神疾患はつくられる」p.275-276


 この研究から、アメリカにおける精神障害のデータが次々と明らかになった。アメリカ成人の32%が生涯に何らかの精神障害に羅患し、20%は常に羅患していた。生涯羅患率は男性は36%で女性の20%よりも高く、若者の羅患率37%は老人の羅患率21%よりも高い。また黒人の38%は他人種の32%よりも高く、低学歴者の36%は高学歴者の30%よりも高く、生活保護層の47%は裕福層の31%よりも高かった。年齢、性別、民族、特定の障害、その他の分布についても明らかにされた。私たちは「45歳から64歳までのスペイン系女性のうち、1.3%という高い割合が反社会的パーソナリティ障害である」などということまで知ってしまった。 同書 p.306
精神疾患はつくられる―DSM診断の罠
精神疾患はつくられる―DSM診断の罠ハーブ カチンス スチュワート・A. カーク Herb Kutchins

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