ロールシャッハテストはまちがっている/ジェームズ・M・ウッド スコット・O・リリエンフェルド M・テレサ・ネゾースキ

 精神分析の反論本を読んでも思うけれど、ほんとうによくこれだけ自分の好きでないものに情熱を傾けられるなと思います。ロールシャッハの歴史に関してはよくまとめられていて、ハーツやボエームの詳しい業績などはこれを読んで初めて知りました。ロールシャッハ臨床に関わる人には必読といえましょう。

 精神医学的診断や司法判断の材料にロールシャッハを使うべきでないという主張には大賛成。
 ただ科学的妥当性のないものは除外していくという方針には、部分賛成。そうなったら「統合失調症」という診断名も多分使えなくなるでしょうね。私たちは不正確な近くの中で、おおざっぱでも正しい方向を目指すことがもとめられているわけです。患者さんの語る通常とは異なるレベルでの反応としてロールシャッハには有意義な部分があるのではないでしょうか。

 本題とはややずれますが、アメリカの臨床心理学の発展の過程を興味深く読みました。爆発的にサイコロジストが増えた際、大学の教員は科学的な心理学の発展(つまり自分たちを頂点としたピラピッド構造)を期待したけれど、現実には科学的論文を書き続けるサイコロジストは減少し、多くのサイコロジストは開業していく。従来のPhDの学位に対して、職能訓練に焦点をあてたPsyDという学位が新設され、精神分析家など臨床家を集めたアデルファイ大学などにコースが置かれる。APA(アメリカ心理学会)は開業サイコロジストの職能団体としての色彩を強める一方で、科学志向のサイコロジストは分派していく。
 基本的には日本でもこの流れを追っているということになります。開業領域がかつてのアメリカほどの隆盛をみせることはないでしょうから(開業可能ということは社会の階層化が進むということですからそんなに良いこととも思えませんが)、科学と臨床というふたつの軸の対立が充分形成されず、大学心理学のヒエラルキーがだらだらとつづくのが一番心配されることです。

 翻訳はわかりやすかったですが、固有名詞の二重母音が単母音化される傾向がありました。「ウエイナー」→「ワイナー」、「アデルフィ」→「アデルファイ」。「アリアント」→「アライアント」

ロールシャッハテストはまちがっている?科学からの異議
ロールシャッハテストはまちがっている?科学からの異議ジェームズ・M. ウッド スコット・O. リリエンフェルド M.テレサ ネゾースキ

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