誰が風を見たか―ある精神科医の生涯/臺弘

 松沢病院を経て群馬大学医学部で生活臨床の基礎を作り、東京大学医学部で学生運動に対応した精神科医の自伝。元筑波大教授で集団精神療法関係の著書のあるサイコロジストの臺利夫氏は実弟


 様々なものが分裂し対抗し、混沌とした状況は歴史的に見たら面白い。中国史だったら五胡十六国時代とか。精神医学・精神療法の歴史であればやっぱり精神分析の歴史の初期は面白い。ユングの離反、アドラーの独立、フェレンツィとの愛憎など、一般にフロイトの思想は独創のように思われているけれど、実際は周囲の弟子たちとの緊密な思想的交流の結果生じたハイブリッドともいえる。

 
 では日本の精神分析はどうかというと、面白いのはやっぱり故・古沢平作の日本化された精神分析にあきたらず、土居健郎先生が渡米するあたりまで。(象徴的には日本の精神分析の原母殺しだと思う)。その後はちょっと蛸壺化というか、個人情報があんまり表に出てこない世界になっちゃったのでそういう歴史的ダイナミズムのおもしろさは失われてしまった。


 それでは何が面白いかというと、ちょっと不謹慎な見方なんだけど、学生運動を巡る東大医学部あたりの攻防は生々しい資料も多いし、面白いですね−。精神分析関連では高橋鉄郎先生、中久喜雅文先生も噛んでいるし。



誰が風を見たか―ある精神科医の生涯
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