哲学・身体を巡る刺激的な対話「精神の哲学・肉体の哲学  形而上学的思考から自然的思考へ/木田元 計見一雄」

 一般には対談ものってあんまり好きじゃないんですが、これは面白かった。哲学をわかりやすく解説できる木田先生の魅力が対談形式で生きています。しかもお相手が千葉県精神医療センター名誉センター長で精神科救急というハードな現場でシステムを構築されてこられた精神科医の計見先生。


 個人的に役に立ったのはアリストテレスの可能態(dynamis)と現実態(energeia)の考え方。これはちょっと今サリヴァンについて考えているから。サリヴァンは自己のことを自己組織・自己態勢 self-dynamism と呼ぶわけだけれど、これってようは精神分析におけるアリストテレス主義なんじゃないか。精神分析におけるプラトン主義とアリストテレス主義なんてテーマとしては魅力ですけど、哲学的素養には欠けているのでかなり手には余りますが。

 
 あと『カウンセリングのエチュード』で菅村玄二先生が「ロジャーズの現象学はヨーロッパ現象学じゃない!」って発見をもとに文章書かれてる。でも、そもそもヨーロッパ現象学の起源をフッサールに置いちゃうところが間違いで、ヘーゲルの『精神現象学』を持ち出すまでもなく、カントからヘーゲル通じてフッサールまで各自いいたいように『現象』について考察しているのがわかった。


 哲学というものは本当に厄介なもので、ヘーゲルのばあいは、人間の精神が真の「絶対精神」になっていく、つまり真の精神として現れいでてくるその論理、現出の論理のようなものをね、「現象学 Phanomenologie」と呼んでいるんです。(p.148)
 これを読んだらやっぱりロジャーズの自己実現を思い浮かべちゃうわけで、それをフッサール現象学とは違うといってもあんまり意味がないかな。書評はもう書いちゃったのがちょっと残念。
精神の哲学・肉体の哲学  形而上学的思考から自然的思考へ (学芸局Dピース)
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講談社 2010-03-11
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